発達の最近接領域

土曜日はDG-Labでガタリの力能記号論の発表をさせていただきました。発表と言っても、「力能記号論が手に負えない」ということを話しただけなのですが……

「手に負えない、手に負えない」と一人で悶えていたのですが、こうして発表を終えると何だか少し道が開けてきたという気がしてきました。参加者の皆さんにいろいろいじっていただけたおかげです。とりあえずリオタールは読むとして、他にも勉強し直せば何とか形になりそうです。あと一年はかかりそうですが。

未完成なアイデアや論稿を人前で披露するのを恥じる研究者もしばしばいますが、人に話すことで風通しがよくなって、アイデアが動き出すこともあります。経験的に何度もあります(確か徒然草のなかにもそういうアドバイスがありましたね)。

こういう状況が概念化されていることを最近になって知りました。心理学者ヴィゴツキーによるもので「発達の最近接領域」という概念です。

どういう中身かというと、人間の発達領域には「問題状況がまったく解決できない領域」と「自分の力で解決できる領域」との間に「自分一人ではできないが誰かのサポートがあればなんとかなる領域」が開かれているという考え方です。

言い換えると、自分ひとりでは発揮できないが他者の導きや媒介があれば発揮できるようになる潜在的な能力の領域が存在するということ。あるいは、自分で制御可能な能力は、自分に備わっている能力の一部分に過ぎないといえるかもしれません。

教育では、教師と生徒の関係のなかで、この最近接領域にアクセスすることで、独力で解決できる領域を拡張すること(=習得)を目指すようです。

DG-Labのような研究会、あるいは大学のゼミ仲間などは、仲間間の関係を使いながら、知らず知らず最近接領域を触発し合っているのかもしれません。まぁ、導きになるというよりはみんなで迷うという感じですが。それでも、ひとりで袋小路に入るよりは全然効果があるのです。

ドゥルーズの習得論やマルディネの「超受容性」と親和性のある概念かもしれませんね。